落語の話から世の中の色々まで


by rakugoboys

辞める者あらば入門する者あり

三か月以上前から入門を懇願している男が居た、この男色々な噺家をへて僕にたどり着いた男。
無下に断るのは簡単だけど最後的思いで頼んで来る、浅草は芸人御用達のブロンディにて話しを聞く。終始おどおどして泣きそうな顔だ、よくよく顔を見ると涙目で前歯が二本目立って、おまけに古臭い銀縁のメガネをかけている。この世の流行にはまったく興味はございませんと言う雰囲気、要するに少しばかりムサイ男、まるでおとぎの国で魔法でネズミにされてしまったが僕に助けてと言っているような不思議な気分で…どこか心あらずで聞いていた。
実は少し前に弟子にした二十歳の男に振り回されて辟易していて、もう弟子はこりごりと思っていたのだ。
正直入れる気は無かったのだが、その後も何度か寄席に顔を出し僕を見つめている気配を感じるようになると、やっぱり居た。ていのいいストーカーがいるような気分だ、これが堀北真希なら大歓迎なのだけど。
第八回目の一門会の時に一応呼んでいたのだけど僕は高座の上から二十歳の男の件も有り入れたくない旨と、もう騙されたくない旨を伝えた。実は突然辞めた理由も分からない不憫な男のことが気になっていたのだ、堪え性のない二十歳の男はなりたいと思った噺家の道を軽く捨てていったことに、そいつの将来がどんなふうになるのかと心のどこかに引っかかっていたので…。
僕は噺家はこの世で一番楽しいやりがいのある商売だと思っているので、その噺家を簡単に捨てられたくなないし、もうそんな光景に出くわしたくないし、そんな男の世話なんかしたくなかったから。
でも入れてやることにした、僕だって師匠三平に何処の誰かも分からない自分を弟子に取ってもらった恩があるのだ、彼は僕の師匠に救われ僕の心を動かしたのだ。
第九回目の一門会の終わりで高座に呼びお客さんに紹介した、おまけに芸名もお客さんの拍手で決めてやった。彼にお客さんの暖かさを体験させてやりたかったのと誰も知らなかった自分の事を少しでも知ってもらった瞬間を忘れてほしくなかったから、彼が辞めるのも続けるのも彼の自由だけど少なくとも彼を知った人達の暖かさも捨てる勇気があるのか。
またそんな奴だったら僕の人を見る眼が育っていないという事なのだ、他人を知ることは難しい、他人を信じるのも難しいことなのだ。
世の中には様々な人が生きているしどこかで関わってくる…このことは未来になっても変わらない事なのだから。

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by rakugoboys | 2015-09-22 08:31 | 落語